北海道part1 フェリーの思ひ出
今回はようやく旅の始まりです。それでは。
一日目
寝坊する。そもそも準備が終わらず、朝6時頃にベッドに入ったのだ。何が必要かわからず、ググって、荷物を詰めて、積んで、を繰り返していたらいつの間にか朝だった。寝なければいけないが準備が終わらない。ようやく終わって一安心しなんとか寝る。起きる。12時だった。11時頃に起きてJRでひたすら乗り継ぐ予定だったにもかかわらずだ。「やばい。間に合わない」なんて思いながら新幹線の時刻表を調べて最寄駅に向かった。
まあ新幹線にしたところで全く余裕がない。駅のホームまで小走りで向かった。8月の関西、そして計30kgの荷物を持ちながらだったため汗だく。地獄や、なんて思ってたら京都駅のエスカレーターでおばあちゃんに話しかけられた。
「あら!大きい荷物持って!何すんの?」
「これ、自転車なんですよー。こいつで北海道一周するんですよー」
「あらあら、がんばってねぇ」
と軽くやりとりをした。「人のあたたかみを知りたい」という僕の隠れたミッションがすでにクリアされた。おおん。
ホームに向かう途中、エレベーターのボタンが押せずに困っていた。すると外国人の方が笑顔でボタンを押して助けてくれた。温かい人ばかりで幸せだった。
ようやく新幹線に乗り、名古屋まで揺られる。「あー、本当に行くんか」とか思ってたらいつの間にか着いた。そこからJR、地下鉄を乗り継ぎ、名古屋港に到着した。名古屋港って言ってもフェリー乗り場ってたくさんあるんですよ。2、3個くらい。そんなことは露知らず、適当にネットで調べた名古屋港に。
案の定違う名古屋港に到着。そこから急いでタクシーを捕まえた。運転手さん曰く、割と違う名古屋港に行く人は多いらしい。しかも車で30分ほどかかるので、「え、30分もかかんの?間に合わないじゃん!やべえ」みたいになる人が多いらしい。まあ僕なんですけども。
そんな感じで鬼ほど焦っていたため、ぶっちゃけ運転手さんとの会話はほとんど覚えていない。しかしこれだけは覚えている。
「君北海道行くの?北海道か〜 北海道ね〜」
「今からもう楽しみなんですよー」
「そうかそうか! 北海道はでっかいどう!てね!ははっ!」
そこから無言の10分間を耐え、真の名古屋港、フェリー乗り場に。受付を済ませ、指示通りに廊下を進む。しかし肝心のフェリーが見えてこない。不安になるけれども、標識のようなものがあるためひたすらに歩き続けた。この時も自転車+荷物の計30kgで両手が塞がれ、限界寸前だった。そもそもフェリーの受付から乗船までこんな長い廊下通るなんて聞いてねえよ、限界寸前てかとっくに限界だよ。なんて思いながら歩いていると視界が急に眩しくなった。
「乗船ありがとうございます!」
どうやらようやく乗船。半端ない疲労感のもとチケットを取り出し、お姉さんに渡す。
「大きい荷物ですね、大変だったでしょう?手伝いましょうか?」と、お姉さん。
疲れた私の心の深くしみた。結婚して欲しかった。
最低限の荷物だけ持ち客室に向かった。
ふんふふーん。上機嫌に鼻歌を歌いながら部屋に入る。
人がいた。しかもバッチリ目があった。ゴツいけど爽やかなイケメンだった。互いに話しかけてみようかなオーラを漂わせながら準備をしていたら相手が話しかけてくれた。
彼をSくんとする。Sくんは同期で、名古屋の専門学生らしい。いろいろ話していると、どうやら彼はバイクで北海道を一周するらしい。学校の課題もそれでこなして一石二鳥的なことを言っていた。一般的な大学生より専門学生の方がよっぽど真面目だよな、もはや話していてこっちが恥ずかしい、なんて思った。
まあ、そんなこんなでSくんと意気投合し話し合っていると、優しそうな顔のお兄さんが部屋に。Mさんとでもする。お兄さん、とはいうもののぶっちゃけ年齢が全く予想出来ず、適当に会話を始めた。Sくんみたいに歳が近そうだったり、若そうだったりしたら「学生ですか?」なんて聞けるんだけど、その入り出しは厳しそうだった。なにせ老け顔なのである。そしてまた1人部屋に入ってきた。坊主である。あだ名は「まりも」この人もまた老け顔である。
こっちが話題に困っているところを見かねてか、「君たち学生かい?」みたいなパスを出してくれた。
「学生ですー!僕たち今20歳でー!」
「僕らも学生だよ!21歳!」
ここで僕とSくんが目を合わせる。「え。まじ?学生?」みたいな感じだった。あれはまじで学生じゃなかった。顔が。貫禄すらあった。
結局、名古屋港で乗ったのはこの4人で、仲良く話して過ごした。ちなみに、僕以外の3人はみんなバイクで北海道をツーリングするようで、会話に混ざれないことが多々あった。バイクの種類とか知らねえよ、なんて思ってたけど楽しそうに話してるから僕もバイクが欲しくなった。
夜ご飯を4人で食べ、夜に。Sくんが
「ひまっすね、甲板行きましょ!」と。4人ともノリノリで甲板に向かった。
やはり夜の甲板は風が強かった。そして、夜空が綺麗だった。ついさっきまで会ったこともないような4人で、今まで見たこともないほど美しい星空。写真には収められなかったけれども、あの景色と感動は今でも忘れられない。
二日目
次の日の北海道の計画を立て、のんびりしていた。
「うわ、電波届いてねえじゃん!Wi-Fi有料じゃねえか、ろくに計画立てらんねーよ(笑)」
なんてみんなで笑い合っていると仙台港に。今回のフェリーは、名古屋発、仙台経由苫小牧着で、仙台には3時間ほど泊まるらしかった。その間、下船できるらしく、4人で仙台港近くのイオンに行くことに。そこでは各々買い足しをして、牛タンを食べた。彼ら3人は名古屋付近で生まれ育っていたため、仙台の牛タン食べたい!とか言って盛り上がってた。無事牛タンを食し、幸せムードでフェリーに戻った。
するとなんだか見知らぬ人が4、5人部屋に。仙台港で乗ってきた人たちである。仙台で乗ってきた人とも仲良くなれるかな、とか思ってたけどみんな話しかけるなオーラがすごくてそれどころじゃなかった。
まあ明日から旅が始まるししっかり寝よか、みたいな感じで寝た。
三日目
起床後すぐ、各々下船の準備を始めた。賑やかに準備をしているけれども、「この3人とはもう会えないかもしれないな」と思い、この喜びを噛みしめながら話し合っていた。過ぎて欲しくない時間ほど早く過ぎてしまうもので、旅の始まりより、この別れの寂しさの方が大きかった。
そんなこんなで最後の最後に、甲板で写真を撮り、下船後すぐ集まることに。
北海道上陸後、雲一つない晴天の下、ゆっくり、ロードバイクを組み立てる。様々なライダーが出発の準備をしたり、別れの挨拶をしている。僕達も別れをしないといけない、そう思っていた。別れ、ではあるし、寂しい気持ちもあった。けれども、4人で、「また会おうね」なんて話しているうちに、自分、あの3人の旅の始まりだ、と感じるようになった。いつの間にか、胸が高揚感でいっぱいになっていた。
今でもあの高揚感、苫小牧港の景色、青空、「頑張れ、頑張って」という心からの応援は記憶に深く刻まれている。
僕の個人的な考えだけれども、初めての長距離旅のスタートはフェリーを使うべきなのかもしれない。ロードバイクに限らず、バイクや車、徒歩だとしても、僕はフェリーを推す。もちろん、新幹線だったり、自走で目的地に向かった方が早いし細かい調整をしやすい。けれども、人との出会いが減ってしまう。フェリーであの3人に出会えたから、僕は良いスタートを切れたのだと思う。「出会い」を期待しているのであれば、是非ともフェリーを使ってみてほしい。そして、非常に遅いフェリーだからこそ、長い旅路を経るからこそ、船内での思い出が濃く残るし、甲板で写真を取り合い最後の会話を楽しめる。そして、ゆっくり陸地に近づくのが目に見えているから旅の始まりを強く感じられるのではないか。
これを読んだ人が1人でも多くフェリーで良い出会いを経験できたらな、なんて。